第17回の救急整形外傷シンポジウム(EOTS)を、一昨年と同様、ルスツリゾートで迎えることとなりました。私がはじめてEOTSに参加したのは、第6回(2000年)宮崎シーガイヤでの開催の時です。フェニックスでゴルフがしたくて、主題の開放骨折にあわせて、赴任したばかりの現病院のそれまでの治療成績をまとめて報告しました。当時、開放骨折といえば、救急外来で局所麻酔下に洗浄・デブリして、あとは直達牽引で逃げて、2週後くらいまでに骨接合にいくといった、かなりアバウトな治療が当たり前でした。ところがそんな時、本会での濃密な議論やGustilo先生の特別講演を通して、開放骨折に対する即時内固定の実践理論というものを恥ずかしながらはじめて知り、これ以降真剣に学問として「外傷」に取り組むようになったと思います。
EOTSはこれまで、日本の救急整形外傷における最新・最先端の知識や情報を常に発信し続けてきました。2010年の日整会での報告によりますと、整形外科における手術の実に半数以上が外傷(骨折ほか)関連であるとのことです。一方、その治療に求められる知識と技術は、日々高度かつ複雑になってきているといえます。特に、軟部組織損傷を伴う外傷に対する再建手術は、外傷を扱う整形外科医ならびに救急医にとって、避けては通れない問題となってきました。しかしながら、マイクロサージェリーの壁は依然として高いものがあります。そこで、今回のシンポジウムのひとつに「マイクロを用いない軟部組織再建」を選びました。イリザロフ法や有茎皮(筋)弁、またはようやく使用許可が下りた真性VACなどを用いた軟部組織再建のスペシャリストをシンポジストとしてお招きし、現時点でどこまでマイクロを用いずに対応が可能なのかを議論して頂こうと考えています。それともう一つ、不思議とこれまでテーマに挙がってこなかった「小児の外傷・骨折」をシンポジウムに選びました。骨折ひとつにおいても、手術か保存か、整復は許容範囲か否か、長期成績は?、・・・子供であるが故に思い悩むことも多く議論は尽きないと思います。そんな中、私が今まで読んだ教科書で最も感銘を受けたものに、井上博先生の名著「小児四肢骨折治療の実際」があります。自らの症例を丁寧にフォローし、幾多の文献的考察を加え、最後には家族への説明まで付記された、日本の小児骨折治療におけるバイブルといえます。初版の発行から9年が過ぎて第2版が出版され、現在また10年が過ぎようとしています。そこで、ご高齢でもある井上先生にご無理を言って、今回「小児四肢骨折治療の実際~その後の10年」という特別講演をして頂くと共に、本シンポジウムのご意見番としてご参加頂くことをご了承頂きました。心より御礼申し上げます。
今日の骨折治療は、新世代髄内釘やロッキングプレートの登場で飛躍的進歩を遂げました。種々の改良により髄内釘は、本来の低侵襲性はそのままに、これまで髄内釘では治療が無理と思われていた難治症例の多くに適応を広げてきました。一方、どうしても髄内釘での加療が無理な症例にはロッキングプレートの出番となりますが、使用法を誤ると従来のプレートにはない合併症が生じる危険性も指摘されてきております。また、単独では治療法選択に悩むことのない骨折も、多発外傷においてはその趣を異にすることも稀ではありません。そんな訳で、主題には「ロッキングプレートの光と影(利点と欠点)」、「髄内釘による難治骨折の治療」、「多発外傷における骨折治療のstrategy」の3題を選びました。
少々欲張った内容となりましたが、ともに代表世話人を引き受けて頂きました、日本医科大学高度救命救急センターの大泉旭先生と岡山大学整形外科の野田知之先生とともに熟慮を重ねた結果であり、会の終わりに皆様が明日の救急整形外傷治療における新たな方向性を感じて頂けたならば本望です。
追記 : 本会はあくまでリゾートでのざっくばらんな会ですので、くれぐれも正装ではいらっしゃらないでください! 会長が浮いてしまいます・・・。それと当然、恒例の学会初日夜の「治療に難渋した症例検討会(酔いどれ本音討論会?!)」もやりますので、若手の先生も尻込みせずにトライしてください!
第17回救急整形外傷シンポジウム会長
順天堂大学医学部附属静岡病院 整形外科 准教授
最上 敦彦